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11月のひとこと

●ありのままを認められたとき
「ありのままの自分を認めてもらう」とは、「自分の感じ方をそのまま認めてもらう」ことです。

 バイタリティーがあった頃、私は自ら講演会やトークショーを年に数回企画・開催していました。
 摂食障害を克復した&克復しつつあるクライアントの方たちにも声をかけ、舞台の上で体験談を話して頂きました。彼女たちの話を聞くことで、先の見えない不安と戦っている受講者の皆さんたちも「自分も治るかもしれない」とご自身の未来に希望を抱けたり、安心してもらえたらと思ったからです

 あるトークショー開催日の朝、ご自身の体験談を話してもらうことになっていたクライアントのYちゃんから電話が入りました。
 「あやさん、ごめんなさい。私、昨日の夜すごい過食してしまって。今、顔がパンパンに腫れていて、とてもじゃないけど行けません。治った人としてお話することになっていたのに本当に情けないです・・・」と泣きながら話すYちゃん。

 「Yちゃん、無理しないでほしいけど、今のあなたが感じていることをそのまんま、みんなの前で話してもらえないかな」と私が言うと、Yちゃんは「少し考えさせてください」と言い、電話が切れました。
 Yちゃんは来てくれると思いました。心配そうにしているスタッフにもそう言いました。後日、その時私の隣にいたクライアントのEさんから「あのとき、あやさんは『Yちゃんは来ると思う』」って静かに言いましたよね。私は多分無理だろうなーって思っていたんです。でも、しばらくしてYちゃんがハァハァ言いながら走ってきて・・・。あのとき、私、すごい感動したんですよね~」と言われました​​♡

 そうなんです。Yちゃんはタクシーに乗って会場に来てくれたんです。既にトークショーは開始していました。早速、私はYちゃんを舞台に上げ、皆さんに紹介しました。
 「Yちゃんです。Yちゃんは昨日過食してしまい、今朝この場に来れないと連絡をくれたのですが、ものすごい勇気を持ってこうしてここにいらしてくださいました。Yちゃん、本当にありがとう」

 摂食障害(過食嘔吐)と醜形恐怖症に悩んでいたYちゃんは、しっかりした声で話し始めました。
 「みなさん、今日は遅刻してしまい本当にすみませんでした。今あやさんがおっしゃった通りです。私は昨日の夜、久しぶりに過食してしまい・・・多分今日のことがプレッシャーになってしまったんだと思います。何度も過食して嘔吐してしまいました。見て頂ければ分かるように、顔はパンパンだし、目の血管が切れて右目は真っ赤です。こんな酷い状態で来るつもりなんてなかったのに本当に情けないです。本当に申し訳ないです。でも前にあやさんが、私がどんな風になってもあやさんが責任持つからって言ってくれてたから。他にもいろんなことを思い出して。
今までの私なら絶対に無理です。絶対に外に出られません。ましてやこんなたくさんの人たち達の前で、こんな自分を見せるなんてことできません。でも、いい加減変わりたいなって思ったんです。もう過食に負けたくないって思って、気がついたらタクシーに飛び乗ってました。正直こんな自分嫌です。でも、あやさんにお会いして、カウンセリングを受けて、こんな自分でもできること、したいことがあって、それをしてもいいんだって思えるようになりました。嫌いでもいいんだって。それって自分を認めていることなんですよね。そしたら段々、過食が減って来て・・・。だから、もう摂食障害は治ったなーって思っていたのに、でも今日みたいな日もやっぱりあって・・・・ほんと悔しいし恥ずかしいですけど、でもこんな自分でもいいって思えます。今、皆さんの前で話ながらそう思いました。ここに来れてなかったら、今頃絶対に自分を責めまくってまた過食して後悔して泣いていたと思います。そもそも私が摂食障害になったのは・・・」
 
 ご自身の体験談を話し終わりYちゃんがマイクを置いた時、会場中で大きな拍手が起こりました。そしてYちゃんは今日初めて笑顔になりました。

 トークショーが終わり、回収したアンケート用紙をスタッフ全員で読みました。そこには、Yちゃんへの感謝の気持ちがたくさん書かれてました。
「Yちゃんの話にすごく力をもらった」「Yちゃん、すごく共感できた」「Yちゃんに励まされました」「Yちゃんがとてもかわいかった。友達になってほしい」「どうやったら治るのかYちゃんの話を聞いて分かった」「Yちゃんから勇気をもらった」などなど。アンケート用紙を1枚ずつ、時に笑い、時に涙しながらゆっくり読むYちゃん。

 実は、彼女はこのトークショーの後、摂食障害を本当に克復してしまいました♪大勢の人の前で、ダメな部分も含めありのままの自分の姿を見せたこと・話せたこと。そして、そんなYちゃんをその場にいた人全員が受け入れ、受け止め、さらにはそんな彼女から元気をもらい感謝しているという「事実」を、彼女も全身で受け止め、信じることができたからです。この日を境に、彼女はダメな自分をダメとは思わなくなりました、言わなくなりました。ダメな自分でも大丈夫だと思うようになったからです。

 今までずっと人からどう思われているかを気にしていたYちゃん。なぜなら、他人が「ありのままの自分」を認めてくれるはずがないと強く思い込んでいたからです。だから誰にもありのままの自分を見せることができませんでした。
 ところが、Yちゃんが一番見せたくないと思っていた自分の姿を見せても、誰1人そんな彼女を嫌ったり呆れたりせず、それどころかそこにいた誰もがありのままの彼女を温かく歓迎し、そして感謝した。この現実を受け止められた瞬間、彼女は初めて自分に自信を持てたそうです♡「そっか。自分がどう感じてもいいんだ。大丈夫なんだ」と思え、とても安心できたというYちゃん。この安心感が自己肯定感を高め、トラウマを癒やし、醜顔恐怖の感情も薄めてくれました。Yちゃんの勇気ある行動は、彼女にとって思わぬショック療法になりました☆もちろん全ては彼女自身の勇気のお陰です。

 さて、他人の「ありのまま」を認めることは、その人のことを「思いやる」ということです。Yちゃんの素直な思いと受講者を思いやる気持ちが受講者に伝わり、受講者の彼女を思いやる気持ちがYちゃんに伝わった瞬間、奇跡が起きたのです。と、言っても奇跡は魔法じゃありません。Yちゃん本人がずっと固持してきた「常識」の壁を打ち破った時に起きた現象です。

 ありのままを認められる体験には、トラウマを癒やしたり自信を取り戻す効果があります。自分の「ありのまま」を受け入れてもらうということは、計り知れない治療効果があるのです。

2016年11月1日
摂食障害カウンセリング あや相談室主宰
摂食障害カウンセラー 長谷川あや

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